Allons enfants de la patrie, le jour de gloire est arrivé !
（さぁ祖国の子らよ、栄光の日はやってきた！）

Bonjour à tous !（みなさんこんにちは！）
フランコフィル（フランス好き）な世界史教員ABCです。

今年もこの日がやってきました！

そう！

７月14日はフランス革命記念日です！🇫🇷
フランス共和国にとって最も重要な祝祭の日ですね！

７月14日の呼び方

このフランス革命記念日、日本では「パリ祭」と呼ばれることが多いですね。

実はこの「パリ祭」という呼称は日本独自のものでして。
1933年公開のルネ・クレール監督の映画「Quatorze Juillet」（キャトルズ・ジュイエ）が日本で公開されるにあたり、配給会社がつけた邦題が「巴里祭」だったんですね。

この映画は日本でもかなり絶賛されたそうでして。オシャレで可愛らしい恋の街、花の都パリというイメージを当時の日本人に鮮烈に植え付けたことでしょう。

ただ、「Quatorze Juillet」（＝ ７月14日）と言われても、それが何を意味するのかピンと来る日本人は多くなかったことと思います。
そこで、華やかなパリの祝祭という意味合いを込めて、「巴里祭」という邦題が付けられたのでしょうね。

そしておそらくはこれが、パリという都市の、ひいてはフランスという国のイメージとなって、日本人の間に浸透していったのだろうな。と、今思いましたｗ

ちなみにこの映画が公開された1933年といえば、フランスの隣国ドイツでアドルフ・ヒトラーが首相に就任し、いわゆるナチスが政権を獲得した年でもあります。ファシズムの台頭と第二次世界大戦の不気味な足音が、ひたひたと忍び寄り始めていました。
このわずか７年後に、花の都パリがドイツに占領されようなどと、どれほどのパリジャンが想像したでしょうか。

さて、本場フランスでは、この日のことを「Fête Nationale」（フェット・ナシオナル ＝ 国民祭典）と呼ぶか、あるいは単に、「quatrorze juillet」（キャトルズ・ジュイエ ＝ ７月14日）と呼ぶのが一般的です。

quatorze が 14、juillet が７月という意味です。
なので、今日の記事のタイトルは、そのまんまなんですね！ｗ

ただ、フランスにとっての「14 juillet」が単なる日付け（１日／365日）ということではなく、特別な祝祭の日、あるいはその祝祭そのものを指して、１つの名詞のような感じで用いられているということは疑い得ません。

その意味では、「Quatorze Juillet」という映画のタイトルを「巴里祭」とするのもあながち間違ってはいない・・・？

と、思わなくもないですが、７月14日の本質が「Fête Nationale」（＝ 国民祭典）であることを考えると、やはりなー・・・という気もしてしまいます。「14 juillet」はパリだけのものではなく、フランス全国のものだからです（もっとも、映画の舞台はパリなんでしょうけどねｗ）。

ちなみに、英語では「Bastille day」（バスティーユ・デー）というそうです。バスティーユって？？

フランス革命序曲

時は1789年。
厳冬で凍りついたパリは、しかし異様な熱気に包まれつつありました。

果てしなく続き、いつ終わるとも知れないイギリスとの植民地争奪戦に加え、アメリカ独立戦争への支援、さらには、王妃マリー・アントワネットによる莫大な浪費・・・。フランス王国の国家財政は、今や破綻の危機に瀕していました。

👆国王ルイ16世と王妃マリー・アントワネット👆

時の財務総監ネッケルは、国王ルイ16世に進言します。
財政破綻を回避するためには、もはや第一身分（聖職者）や第二身分（貴族）の封建的特権を剥奪し、彼らにも課税するよりほかありません、と。

しかし免税特権は彼らの既得権益。易々と課税に賛同するはずがありませんでした。彼らは言います。どうしても課税したいというのなら、フランスの伝統的な身分制議会である三部会に諮って承認を得てからにしていただきましょう、と。

身分制議会とは、聖職者、貴族、平民という３身分のそれぞれから代議士を選出して召集される議会のことです。
第一・第二身分の思惑は、言うまでもなく課税の阻止でしたが、第三身分（平民）にとっては、三部会は不平等な税制を是正するためのまたとない機会でした。

こうして各身分は、目的が正反対でありながら奇妙な一致を見せ、1614年以来175年ぶりとなる全国三部会が、ヴェルサイユで開幕したのです。

三部会の議決方法は、そもそも第三身分にとって大変不利なものでした。
すなわち、３身分それぞれの部会ごとでまず議決をとり、その後身分ごとの投票で採決するのです。ということは、「特権ニ身分に課税すべきか否か」という今回の議題をめぐっては、第一身分と第二身分が一致して課税に反対し、第三身分は２対１で敗れるに決まっていたのです。

しかし、もはやこれで引き下がる第三身分ではありませんでした。
聖職者出身でありながら、啓蒙思想の強い影響を受けたシェイエスは、パンフレット「第三身分とは何か」において、こう主張します。

1º. Qu’est-ce que le Tiers-Etat ? Tout.
　　第三身分とは何か？全てである。
2º. Qu’a-t-il été jusqu’à présent dans l’ordre politique ? Rien.
　　それは今日まで、政治的秩序において何者であったか？無である。
3º. Que demande-t-il ? A y devenir quelque chose.
　　それは何を求めるのか？政治にとっての何者かになることである。

シェイエスにとっては、全人口の90％以上を占める第三身分こそが、まさに「国民」（Nation：ナシオン）であるべきでした。

このシェイエスの主張に基づいて、第三身分は三部会から分離独立し、独自に「国民議会」の設立を宣言します。そして、たとえ銃剣で脅されようとも、「憲法を制定するまでは絶対に解散しない」ことを互いに誓い合ったのです。その場所がヴェルサイユ宮殿内の屋内球戯場であったことから、これを「球戯場の誓い」といいます。

👆ジャック＝ルイ・ダヴィッド『球戯場の誓い』
ちなみにここでいう球戯とは、ジュ・ド・ポーム（jeu de paume）というテニスの原型のようなスポーツのこと

この思いがけない展開に慌てた国王ルイ16世は、あの手この手でなんとかして国民議会の鎮圧を図ろうとします。

７月11日、国王は民衆からの人気の高い財務総監ネッケルを罷免します。

この罷免が、決定打となりました。
翌12日にはこのニュースはパリ市内を駆け巡り、パレ・ロワイヤルのカフェにて、カミーユ・デムーランというジャーナリストがついに叫びました。

Aux armes citoyens !!（武器を取れ市民よ！！）

13日には、いよいよパリ市民が武装を開始。人々は武器を掻き集めることに躍起になります。

この日、ルイ16世は日記にこう書き記しました。

Rien.（なにもなし）

これは、趣味である狩りの結果についてでした。

バスティーユが陥落した日

迎えた７月14日。
武器を求めてパリ市民がアンヴァリッド（廃兵院）とバスティーユ牢獄を相次いで襲撃しました。

bastille（バスティーユ）とは、フランス語で「要塞」という意味。
しかしその中でも、1789年に襲撃されたパリのこの「バスティーユ」は特に有名で、固有名詞的に用いるために大文字を交えて「La Bastille」と記されたりします。

そもそもは14世紀（百年戦争中）のフランス王シャルル５世が、今よりもずっと小さかったパリの東部防衛のために建造した文字通りの「要塞」だったわけですが、17世紀頃からは政治犯の収容所（牢獄）として使われるようになり、やがて「圧政の象徴」と見做されるようになっていきました。

アンヴァリッドでは比較的容易く武器の奪取に成功しましたが、バスティーユはその門を固く閉ざし、決して市民に武器を譲ろうとはしませんでした。

業を煮やした民衆はついに要塞内へとなだれ込み、守備隊との激しい死闘の末、ついに「圧政の象徴」バスティーユは民衆の手によって陥落しました。

この報せは、直ちにヴェルサイユにもたらされました。
前日と同様に狩りに勤しみ、疲れたのか早々と寝ていたという国王を起こして、衣装係のリアンクール公が事の次第を伝えます。このとき、彼らの間でこんなやりとりがあったといわれています。

王：C’est une révolte ?（暴動か？）

公：Non sire, c’est une révolution.
　　（いいえ陛下、革命でございます。）

側近が国王陛下に対してこんなことを言うのかという気もしますが、それはともかくとしても、一般的にこのバスティーユ襲撃をもってフランス革命の始まりとされています。

実際にここから、革命的行動や出来事が立て続けに起こるようになります。

革命と共和政

1789年のうちに、いわゆる「人権宣言」が採択されたほか、民衆によって国王一家がパリへ連行されています（ヴェルサイユ行進）。
1791年には国王一家が国外逃亡を図って失敗し、国民はそれまで父と慕っていた国王に失望しました（ヴァレンヌ逃亡事件）。

翌1792年には、自国への革命の波及を警戒する近隣諸国との革命戦争が始まり、その渦中でついに王権が停止されます。
この年の９月、新しく召集された議会である国民公会によって王政の廃止が正式に決議され、同時にフランス史上初の共和政樹立が宣言されました（第一共和政）。

そして続く1793年。元国王ルイ16世は、当時革命広場と呼ばれた現在のコンコルド広場にて、断頭台の露と消えました。

このとき、元国王は以下のような言葉を残したとされています。

「私は諸君らによって着せられた無実の罪により死んでゆく。しかし私は、この死の執行人たちを許そう。願わくば、これ以上の血がフランスの大地に降り注ぐことのなきよう、切に神に願う。」（原文フランス語、意訳ABC）

しかしこの遺言も、大観衆の熱狂により、虚しくかき消されたといいます。

👆国王の身体的消滅は、王政廃止の完成に不可欠であると考えられました。

この断頭台（Guillotine）、ギヨタン（Guillotin）という医師が、「罪人が苦しむことなく一撃で確実に逝けるように」という人道上の配慮から考案したものでしたが、下図のような刃先の形状を提案したのは、他ならぬルイ16世であったと言われています。なんとも皮肉な話です。

こうして、かつてのフランス王国はフランス共和国として生まれ変わりました。

フランス革命の終息後は、皇帝ナポレオン１世による第一帝政、ブルボン復古王政、七月王政、第二共和政、第二帝政、第三共和政、ナチス・ドイツによる占領期、第四共和政と続き、現在の第五共和政に至ります。

理想的な祭り

ここで７月14日に話を戻してみますと、バスティーユ襲撃のあった1789年はもちろんのことながら、おそらく1791年のヴァレンヌ逃亡事件の頃までは、共和政への志向（共和主義）などほとんど見られなかったといっても差し支えないでしょう。

むしろラ・ファイエットをはじめとした革命初期の指導者たちが目指していたのは、憲法の制定により王権を制限した上で、王政そのものは存続させるという、いわゆる立憲君主政だったのです。

バスティーユの陥落からちょうど１年後の1790年７月14日。
国王夫妻臨席の下、パリのシャン・ド・マルス広場（現在エッフェル塔が立っているところ）で初めての全国連盟祭（Fête de la Fédération ）が開催されました。

広場の中央には「祖国の祭壇」が設けられ、オータンの司教タレーランの進行による極めてキリスト教的なミサが行われた後、国民衛兵隊司令官ラ・ファイエットにより、「国民・法・王」（la Nation, la Loi et le Roi）に対する忠誠が誓われました。

👆祖国の祭壇上で宣誓するラ・ファイエット

共和主義的な要素が見られないのは当然のこととして、祭典のプログラム自体もまた、特に面白いものではありませんでした。

であるにもかかわらず、この1790年の第１回全国連盟祭は、この後も革命期を通じて開催され続けた一連の革命祭典にとって、重要なモデルであり、理想の祭りとされました。人々が感動したのは、祭典の中身ではなく、その準備過程の方だったのです。

この年、連盟祭の開催に合わせて、フランス中から人々がパリへと集結しました。このこと自体が、極めて感動的なことだったのです。

フランス革命前の社会（アンシャン・レジーム）においては、人々には「フランス人」であるという自覚（少なくとも、「フランス国民」であるという自覚）などほとんどなく、彼らのアイデンティティは、自分の住む都市や村といったコミューンに求められたか、せいぜいがプロヴァンスだとかブルゴーニュだとかの「地方」（Région）に求められました。

それが今や、出身地方ばかりか、身分や年齢、性別など、あらゆる垣根を超えて、皆が誇らしげに「フランス国民としての連帯」を祝うために首都パリへと集結したのです。それは、たしかに「国民国家」（État-nation）の誕生を感じさせる光景でした。19世紀の歴史家 J.ミシュレは、ここにひとつの「奇跡」を見出します。

式典会場となるシャン・ド・マルスの造営工事は遅れに遅れ、このままでは７月14日に間に合わないのではないかと危ぶまれるほどでした。そこで、業を煮やしたパリ市民や全国から集まった連盟兵らが、まさに身分も性別も年齢も関係なく、皆が一緒になって、自発的に工事を買って出たというのです。

かつてこのあたりの研究をしていたABCにとって、何かで読んで忘れられないエピソードがあります。

工事現場に時計を置き忘れた人がいて、ある人が「時計を置き忘れているよ」と声をかけると、「兄弟を疑ったりはしないさ」と返ってきた、というような話です。

このとき、「フランス人」はひとつの巨大な家族でした。
現在のフランス共和国の標語は、革命期によく見られたスローガンの一種である「Liberté Égalité Fraternité」（自由・平等・友愛）ですが、このうちの Fraternité は、「兄弟」を意味する frère と同語源で、語義的には「兄弟愛」とか「同胞愛」とでも訳すべき概念です。
シャン・ド・マルスの造営工事のエピソードは、まさにこの  Fraternité の顕現であるようにABCには思えました。

👆現在のフランス政府のロゴ。
描かれているのは、フランスの擬人化シンボル「マリアンヌ」。
自由の象徴であるフリジア帽をかぶっている。

革命の記憶と共和国

ところが、フランス革命後、「７月14日」は、忘れ去られたわけではないでしょうが、祝祭の日としては放棄されました。その後の歴史的展開の中で、各時期、各政体に、それぞれ祝福すべき日付があったのです。

「７月14日」が再び注目されるようになるのは、1870年に始まる第三共和政下においてのことでした。

第三共和政は、プロイセンを中心としたドイツ軍との普仏戦争の渦中で、皇帝ナポレオン３世が捕虜となり、第二帝政が崩壊したことを受けて樹立されました。

成立間もない共和国にとっての最大の課題は、国民の統合でした。
この頃のフランスは、国内に共和主義者と王党派、ボナパルティスト（皇帝主義者）、無政府主義者などの対立をはらんでいたほか、臨時政府によるドイツへの降伏に反発したパリ市民が武装蜂起し、世界初の労働者政権であるパリ・コミューンが樹立されるなど、深刻な分断の危機に晒されていました。

パリ・コミューンの鎮圧後、第三共和国政府は、国民統合のための祝日制定に向けて、その日付の検討に入りました。

選定にあたっては、フランスの輝かしい栄光と統一の喜びに満ち溢れ、できる限り党派性や暴力性、君主主義などを感じさせない日を選ぶ必要がありました。様々な記念すべき日付が候補に上がりましたが、最終的に選ばれたのは、７月14日でした。

たしかに、1789年の７月14日は暴力的な記憶を想起させる日付でしたが、しかし同時に、封建制や絶対王政といった古いフランスと決別し、新しいフランスへの歩みを始めるには、不可欠な日でした。

そしてその1789年の暴力性を補って余りあると考えられたのが、1790年の７月14日でした。ミシュレの描いた「奇跡」的かつ感動的な光景は、国民の祝日としての７月14日の制定にとって、強力な後押しとなりました。

かくして、1880年には正式に７月14日を祝祭日とする法案が上下両院で可決され、成立しました。

その後は、その時々の情勢を反映したり、あるいは情勢に左右されたりしながらも、一貫して「７月14日」はフランスにとって最も重要な祝祭として尊重され続けています。

おわりに

ということで、本日は本当に好きなことを遠慮なく存分に書き綴ってまいりました。その字数、実に7000字以上（！）ｗ
さすがにうちの note 記事の中でも歴代最多なのではないでしょうかｗ

自分で言うのもなんですが、それぐらい、探究欲を抑えきれなくなるような対象があるということは、幸いなことだと思います。
しかしこれ全部読んでくれる人いるのかな？ｗ
もしいたら、ありがとうございます🙇

それではまた次回お会いしましょう〜

Au revoir 〜🖐 🇫🇷