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ド文系だってド文系なりに数学史隊(仮)

どうもこんにちは、ド文系な世界史教員ABCです。

世界ではなにやらまたスゴイことが発見されたそうなので、今日はそのご紹介記事をお送りしようと思います。

最初にこの話題を知ったのは、Twitterでなぜか日本のトレンドに入っていたアラビア語と思われるTweetでした。

Tweetは、قناة بينونة(BaynounahTV)というアラブ首相国連邦(UAE)の首都アブダビにあるテレビ局(?)のものでした。

なんだこれは。円盤?メダル?

アラビア語はまったく読めないのですが、Twitterアプリには「ツイートを翻訳」という機能があります。翻訳してみると、以下👇のようになりました。

シドニーのサウスウェールズ大学(UNSWシドニー)の数学者は、1894年に現在のイラク中央部で発見された3、700年前の粘土板に適用された幾何学の起源を明らかにしました。
大学が8月初旬に発表した声明によると、タブレットは1世紀以上にわたってイスタンブールの美術館に隠されてきました。

とのことです。今は機械翻訳の精度もすごいんですねぇ(太字強調はABCによる。以下同様。)

とはいえ、うまく訳せない部分が無いわけではなさそうです。
例えば「適用された幾何学」という部分。ここはたぶん英語で言うところの Applied Geometry、すなわち「応用幾何学」でしょうね。

ん、応用幾何学ってなに??

とりあえず、このTweetにリプライの形で続いている、続きのTweetも翻訳してみました。

古代バビロニアのタブレット

ただし、その重要性はまだわかっておらず、タブレットは適用されたジオメトリの最も古い既知の例であると考えられています。
ニューサウスウェールズ大学の数学統計学部の主任研究員であるダニエル・マンスフィールド博士によると、このタブレットは古代バビロニア時代にまでさかのぼります。

タブレット」とは、iPad のようなもののことではありませんw

tablet の本来の意味は、「小さな板状のもの」です。語末の「et」は「指小辞」といって、名詞に「小さな」という意味をもたせるものです。
では小さくなければ何なのかというと、指小辞を取って、「table」です。テーブルって、脚の付いた大きな板ですよね。
その語源はラテン語の「tabula」(字を刻むための板)です。何も書かれていない、すなわち白紙状態であれば、いわゆる「タブラ・ラサ」ですね。

ちなみに「tablet」には「錠剤」という意味もあります。「ミント・タブレット」などという場合は、こちらの意味ですね。

適用されたジオメトリ」。
geometry =「幾何学」なので、これも上記同様、「応用幾何学」でしょうね。なぜ訳語がさっきと違うのか・・・。

古代バビロニア時代」。
もちろん「」でしょうけど、3700年前ということなので、ひとまずこれを真に受けてみると、「2021-3700=-1679」。
紀元前1679年頃のものだとすると、「バビロン第1王朝」(前1900頃―前1595)時代ですね。

「目には目を、歯には歯を」で有名なハンムラビ王は紀元前18世紀(前1700年代)の人とされることが多いようなので、だとすると、この粘土板は彼よりも後の時代のものですね。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

土地の境界をめぐる問題

マンスフィールドは、これは「旧バビロン時代の地籍文書の唯一の既知の例であり、測量士が土地の境界を決定するために使用した計画です。この場合、それは、一部が売却された後、分割されました。」

旧バビロン時代」。
「旧」と言っているのは、おそらく「バビロン第1王朝」は別称で「古バビロニア王国」とも呼ばれるからでしょうね。

バビロンを都とした古代王朝としては、他に「新バビロニア王国」がありますので、それと対比するための呼び名ってことですね。
ちなみにどちらもセム語系の民族が建てた王朝ですが、「古」の方はアムル人、「新」の方はカルデア人が建てたもので、時代も1000年近く隔たりがありますので、地域が同じだけで特に関わりはなさそうです。

地籍文書」。
「応用幾何学」絡みで考えるにあたり、これが「地籍文書」であり、「測量士」が使用したという点がポイントのような気がします🤔

「土地の境界」の確定は、歴史上いつも極めて重要な問題です。争いの火種になるからです。

ただ、「この場合、それは、一部が売却された後、分割されました」という部分はちょっとよくわからないですね。

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ピタゴラストリプル

この粘土板の重要性は、現在「ピタゴラストリプル」として知られているものの使用にあります。
この絵はピタゴラス自身の誕生の千年前に作られたので、この発見は数学の歴史に大きな影響を及ぼします
タブレットの前面にフィールド図が表示され、さまざまなフィールドの境界が示されています。

ピタゴラストリプル」(Pythagorean Triple)は、直訳すると「ピタゴラスの3つ」ですが、3つの何なのかというと、「自然数(=正の整数)」です。日本語では、一般的に「ピタゴラス数」と呼ばれるようです。

「ピタゴラス数」とは、簡単に言うと「直角三角形の各辺の長さとなりうる3つの自然数の組み合わせ」のことらしいです。

直角を挟んだ2辺の長さを、それぞれ2乗して足すと、斜辺の長さの2乗に等しくなります(ピタゴラスの定理)。このときの各辺の長さが3つとも自然数であれば、その組み合わせを「ピタゴラス数」というそうです。

とかって文で書くからわかりにくいんですよね😔

これを作図して数式化してみましょう。
仮に、直角を挟む2辺を辺a辺bとし、斜辺を辺cとしてみましょう。

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aとbをそれぞれ2乗して足すと、cの2乗に等しくなります。つまり・・・

画像3

これが「ピタゴラスの定理」ですね。
そしてこの数式👆の a, b, c を満たす3つの数字が、全て自然数であれば、それをピタゴラス数というわけですね💡

典型的な組み合わせとしては、「3と4と5」があります!
(実は👆の図も a=3,b=4 で作ってあります!)

cの長さは測ってませんが、👆の数式に a=3 と b=4 を当てはめることで求められますね。

c^2 = 3^2 + 4^2
c^2 =9+16
c^2 =25
c=√25
c=5

すごくないですか? なんでこんなこと思いつくんでしょうね???

ピタゴラスの定理」とは言いますが、これ(a^2+b^2=c^2)を発見した人がピタゴラスであるという確証はないのだそうです(ピタゴラスはピタゴラスで独自に「発見」したのかもしれませんが)。

このあたりのことについては、国立国会図書館のこのページ👇がメチャメチャ興味深いです!

ピタゴラスは紀元前6世紀の自然哲学者(宗教家?)ですが、それよりも遥か以前の古代メソポタミアで既に知られていたことは、割と有名らしいです(メソポタミアすげぇ!)

実際、今回研究発表がなされた粘土板は紀元前17世紀のものらしいので、本当にピタゴラスよりも1000年以上前ですね!

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楔形文字

声明によると、境界は非常に正確であり、当時の予想よりも正確です。
タブレットの背面には、最も古い書記体系の1つである楔形文字で書かれたテキストがあります。
テキストは前の図に対応し、フィールドサイズなどの側面を説明しています。

楔形文字」。
メソポタミア文明といえば楔形文字ですね。文字がというか、文字を構成する一つ一つの要素が楔(くさび)のような形をしていることから、こう呼ばれるようになりました。

その発明は紀元前3000年代とされており、エジプトのヒエログリフ(神聖文字)と並んで、人類史上最も古い文字の一種と考えられています。

都市文明を最初に築いたとされるシュメール人が発明し、その後アッカド王国やアッシリアに受け継がれ、最終的にはアケメネス朝ペルシアがマケドニアのアレクサンドロス大王に滅ぼされるまで、西アジアの共通文字として使い続けられました。

その後は長らく忘れ去られていましたが、1847年にイギリスのローリンソンによって解読されました。そのおかげで、どうしてもヨーロッパ中心であった古代数学史に新たな光を当てることが可能になったともいえますね。

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Si.427

ボードの裏側の下部には多数が見られますが、その目的はまだわかっていません。
マンスフィールドは、発掘記録でSi.427粘土板について読んだときに、最初に紹介されました。
このタブレットは、1894年にバグダッド州で行われた遠征中に発見されました。

これで最後なんですが、このTweet(の翻訳)は、全体的によくわからないですね。。。

1894年にバグダッド州で行われた遠征」というところも気になって調べてみました。

当時のイラクはオスマン帝国領でしたが、欧米列強の帝国主義的野心が向けられるようになっており、実際、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世は、ベルリン、ビザンティウム(イスタンブールのこと)、そしてバグダードを結んで中東進出への足掛かりにしようとする「3B政策」を構想していました。

ので、それ関係かな?と思ったら、どうやら全然それ関係じゃなかった・・・。

普通に調べても出てこなかったので、試しに「Si.427」で検索してみたら、なんとWikipediaのページ👇がありました(英語です)。

👆によると、ここでいう「遠征」とは、どうもフランスの「考古学調査隊」による派遣団のことみたいです。

そして「Si.427」は、その一員であったドミニコ会士でアッシリア学者の Jean-Vincent Scheil という人によって、Tell Abu Habba の遺跡(古代都市 Sippar、シュメール語:𒌓𒄒𒉣𒆠 )で発見され、コンスタンティノープル帝国博物館(現イスタンブール考古学博物館)に預けられたのだそうな。

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応用幾何学について

さて、これだけやっておいてなんですが、、、

日本語でわかりやすく紹介されているWEBページを発見しましたwww🤣

お送りしてまいりましたこの記事は、「雑学寄せ集め」みたいな感じでゴチャゴチャしてしまいましたが、結局今回の発見は何がそんなに大発見だったのでしょう???

👆のリンクのうちの上の方(ナゾロジーさん)の方に飛ぶと、トップ画像の右上にさらにリンクが貼ってあって、そこにこう書いてあります。

Incredible 3700-Year-Old Babylonian Clay Tablet Is World’s Oldest Example of Applied Geometry

これって、

「3700年前のバビロニアの驚くべき粘土板は、応用幾何学の世界最古の実例だった!!」

みたいな意味ですかね??

そうなんですね。
応用幾何学の世界最古の実例」というところがスゴイんだと思います。

でもそうすると、結局、最初の方で書いた「応用幾何学ってなに??」という問題が再浮上します。

いろいろ調べてみましたが、ド文系なABCに一発でわかりそうな説明はなかなか見つかりません。

ただ、なんとなく若干わかったようなそうでもないような気持ちになった解説も見つかりました!それが👇

コチラ👆のページ、目次へ飛んでみると、その名もなんと「易しくない計算幾何学」!!しかも運営元がなんと建設コンサルタント会社さん!!さすが!!建設(建築)には幾何学は必要不可欠ですね!

こちらのページをABCなりに噛み砕いてみますと、応用幾何学の「応用」とは、「現実への応用」ってことなのかなと思います。

単に教養としての、あるいは自然哲学者が好んだような「真理」を探求するための「学問」(純粋科学)は、それはそれで面白いものかとは思うのですが、しかし「それが人間生活にどう役立つのか」ということにはあまり関心を払わないのかもしれません。

幾何学において、それを「人間生活に役立てる」具体的な方法のひとつが「測量」なのかな、と。

そもそも「geometry 」とは、語源的には「土地測量」という意味です(geo = 土地、metry = 計測)。
漢字の「幾何」も、訓読みすると「いくばく」、つまり(長さや面積が)「いかほど」か、という学問なのです。

空に浮かぶ島ラピュタ

このあたりのことについて、わかりやすく教えてくれているのが、意外にもジョナサン・スウィフト(1667-1745:アイルランド)の『ガリバー旅行記』です。

『ガリバー旅行記』といえば、小人の国リリパットで縛り上げられたシーンが有名ですが、実はこの話は、全4部あるうちの第一部なのです。

第三部では、空に浮かぶ島ラピュタへとやってきたガリバー。この国の人々は、数学と音楽には長けていますが、むしろそれ以外のことには全くの無関心で、常に考え事をしていて、叩かれないと目の前のことを忘れてしまうぐらいです。そんなラピュタ滞在中に、こんな描写👇があります。

 家屋の建て方はじつにまずい。壁は傾いているし、どの室だって直角のところが皆無だ。これはひとえに連中が応用幾何学を軽蔑している結果なのだ。応用幾何学などは卑しい職人芸だと軽蔑しているが、連中の与える指図は職人たちの知能にはあまりに高級すぎて、たえず間違いを起こすのである。

この部分も含めた一部が、👇で読めますので、ぜひ読んでみてください。『ガリバー旅行記』って本当はこんな感じなのか!って、きっと驚きますよ。

幾何学を含む多くの「知恵」は、必要性が先にあって生み出されているか、あるいは偶然の発見であったとしても、そこに「応用可能性」が認められたからこそ、「知識」として体系化されていったのだろうなと思うわけです。

ところが、ひとたび知識が体系化されると、その序盤に「基礎知識」なるものが形成されるように思います。この基礎知識は、ややもすれば現実味を感じられず、どこか無味乾燥として虚しいもののように思えることがあるかもしれません。

しかしこの段階を乗り越えて、その「魅力」ないし「有用性」に気付いてからは、二つの道に分かれうるかな、と思います。すなわち、まさにその「魅力」をとことんまで突き詰めようとする「学問」の方向性に行くのか、「有用性」の方に着目してその活用法を模索するようになるのか。そんな気がしています。

ということで

今回はアラビア語 Tweet の紹介から始まり、数学や世界史、さらには文学など、さまざまな話題をごちゃ混ぜにしてお送りいたしました。

結局この記事は何だったのかというと、「1つ知ることによってもっと知りたくなり、そしてもっと知る」ことは面白い ❣ という話だったように思います。

しかしABCの書く記事は単なる「自由研究帳」になってきたな。

でも「自由研究」上等じゃないですか?? 「やれ」と言われてやるものじゃないから、「自由」なわけですよね!STEAM & HISTORY同好会でも、「探究」という言葉に代えて「自由研究」って言おうかな?🤔

ということで。
夏休みは終わってしまいますが、皆さんも時間を見つけてぜひ「自由研究」してみてください!(宿題まだの人はまずそっち終わらせてね!w)

ではまた~ Au revoir ✋

みんなにも読んでほしいですか?

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