八冠王誕生

10月11日(水)将棋界に新たな偉業が刻まれた。

八冠独占

以前の記事でも触れた通り,今回藤井総太竜王名人が永瀬拓矢王座に挑戦することになった第71期王座戦五番勝負。
このシリーズは3勝1敗で藤井総太竜王名人が奪取し,現在将棋界に存在するすべてのタイトルを独占する八冠独占となった。

シリーズ全体の印象

しかし,シリーズを通しての4局の内容は藤井総太竜王名人としては納得のいくものでは無かっただろう。
そして,”軍曹”のニックネームで永瀬拓矢王座としも研究のし甲斐のあるシリーズになったであろう。

シリーズ第1局は,先手藤井総太竜王名人,後手永瀬拓矢王座と現在若干ながら有利と言われている後手番になってしまった永瀬拓矢王座。しかし,永瀬拓矢王座の棋風である,負けない将棋を体現したのか,藤井総太竜王名人からの攻めを受け続け,後手番ながら勝利を飾った。

シリーズ第2局は,歴史に残る一戦ではないだろうか。後手番となった藤井総太竜王名人が入玉を果たし,自身の玉の守りが手厚くなり,永瀬拓矢王座の玉へ猛攻を仕掛けた。しかし,軍曹の負けない将棋のによって詰め切ることができなくなった。ここで入玉宣言法という勝利の方法がある。
自身の玉が入玉(相手の陣地まで玉が攻め込むこと)している。
自身の玉に王手がかかっていない。
玉を除いて相手の陣地に自身の駒が10枚以上ある。
相手の陣地にある玉以外の駒と持ち駒のうち飛車角を5点,金銀桂香歩を1点として28点(後手番なら27点)以上ある。
これらの条件を全て満たし,自分の手番に指さずに宣言をすることで勝利が決まる方法である。
しかし,どれか1つでの条件を達成していなかった場合敗北になるリスクもある。
1分将棋になり,この規定の確認にいくこともできなくなった状況で,永瀬拓矢王座の粘りが始まる。この入玉宣言法を達成させないような手を指していく。
最後には,永瀬拓矢王座の玉がつかまり詰みによる決着となったが,駆け引きの多い非常に面白い対局内容となった。

シリーズ第3局,第4局はともに同じような内容展開であった。
中盤から終盤にかけて永瀬拓矢王座が盤面を有利にしていく差し回しが続いた。将棋AIによれば第3局,第4局ともにAIの最善手を指し続けられれば必勝といえるほどの差がついていた。しかし,人間はAIではない。30手まで先を読めるAIと違い人間の損得勘定は目先の一手に集中する。その中で,2局共にAI上の大逆転を許し敗北となったのだ。

強い強いといわれた藤井総太竜王名人だが,終盤までの内容からいえば1勝3敗なのであった。
逆に永瀬拓矢王座は3勝1敗と王座防衛,名誉王座称号資格保有者へとたどり着けた可能性も多いにあった。

将棋はAIが指すものではないからこその面白さもあるが残酷さもある。そんなシリーズになった。

今後の防衛戦

八冠独占したということは今後のタイトル戦にすべて登場するということの裏返しでもある。

実際に,王座戦の途中からは2日制の竜王戦も始まり,同い年の伊藤匠七段の挑戦を受けている。
今年度中でいえば,王将と棋王の挑戦を受けることとなる。

王将リーグでは現在2戦2勝の羽生善治九段。1勝1敗の豊島将之九段,菅井竜也八段。1戦1勝の永瀬拓矢九段とタイトル経験者が上位をひしめく。
棋王戦トーナメントでは,広瀬章人八段,現在竜王に挑戦している伊藤匠七段,そして本田奎五段がベスト4を決め,残りの1枠を豊島将之九段と佐々木大地七段の勝者が埋める。
ここから先の防衛戦にも注目である。