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『15%』

正則学園高等学校

こんにちは、教員Hです。本日は芸術科教員としてではなく、先日行われた特別授業(講演会)の担当者としてお話しさせていただきます。

今回講演者としてお招きしたのは、秦優人(はたゆうと)さん。(写真左)

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学於noteで「出藍の誉」という言葉を紹介した時に、最後チラッと話をした教員Hの教え子です。私の自慢の生徒です。

現在、大東文化大学4年生で、卒論執筆の真っ最中。

そんな中、11月19日(金)の午後、本学1年生を対象に特別授業をしてもらいました。

なぜ現役大学生が高校で講演会を?と思いますよね(笑)

正則学園のノリと勢いがなせる業かなと思います(笑)

秦という男

このnoteでチラホラと話している通り、教員Hは正則学園で働く前に埼玉の高校で非常勤講師をしていました。秦はその時の生徒です。だから秦さんとか言うの恥ずかしいので秦と呼びます(笑)

芸術の授業で書道を選択していて、秦は書道室の席に座っていました。

最初は全く気付かなかったんです。気付いたのは授業開始から2週目。

最初は遊んでいるのかなと思ったんですが、声をかけてみたら平然とした声で秦は答えました。

「あ、俺、左腕無いんすよ」

腕を袖の中に入れてふざけてるのかな、とか最初は思ったんですが、声を掛けたら生まれつきなんだと。担任からも何も言われてなかったので、ただただびっくりしました。

どう対応したらいいかと聞いても、「あ、大抵のことはできるんで大丈夫です」と本人は言います。

過剰に気を回しても失礼なのかなと思い、「わかった、何かあったら言って」とだけ伝え、授業を始めました。

書道なので当然、筆と半紙と墨を使います。横画を引くとき、右腕を動かし筆を半紙にこするように、または引きずるように動かします。筆の持ち方や力加減が上達しないと、墨で濡れた筆は半紙にくっつき、半紙も引きずられます。そのため左手で半紙の左端を抑えなくてはいけません。

左腕のない秦は最初は苦労していましたが、段々と力加減を調節し、上手に字を書き始めたんです。扱いにくい毛筆で当たり前に書いているその姿に驚きました。

「文鎮もう一個使う?」

「え、いいんすか」

「うん余ってるし。半紙の上と、ここに置いてごらん」

「え、めっちゃ書きやすい(笑)」

半紙の左端にも文鎮を置いてみると、周りの生徒と同じように書き始めました。この瞬間から、秦に対する特別扱いは無くなったかもしれません。

後日、「授業でこういう生徒がいるんだよ」と書道部で話したところ、部員の一人が学食で秦を見かけ、声をかけたそうです。「あ、君が秦くん?(教員H)先生が褒めてたよ」

それがきっかけになったんですかね。2学期から秦は書道部に入部しました(笑)

そして2年生になり、秦の勧誘活動により大所帯になった書道部。夏には秦も文化祭恒例の書道パフォーマンスに参加しました。めちゃめちゃカッコイイパフォーマンスに仕上がり、文化祭クオリティを超えてるね!と称賛を浴びました。

教員Hが非常勤契約を満了し、正則学園で講師をしながら外部コーチをした年。書道パフォーマンスのすべてを、秦をパフォーマンスリーダーとして部員たちに任せました。企画、構成、演出、台本、作品構図、すべてです。

秦は生徒会、放送部、合唱部、吹奏楽部、軽音楽部に声をかけ、照明やスモークのタイミングを練り、生演奏によるパフォーマンスを完成させ、教員Hを号泣させました(笑)

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高校を卒業して4年が経ち、今年の夏。



秦はパラリンピックの閉会式のパフォーマーとして、舞台の中央に立っていました。



いやぁ、そりゃもうビックリですよ。テレビ見てたら出てるんだもん、教え子が。世界の舞台の真ん中に。大きい声も出ましたよ(笑)

私の事はいいんですよ。秦の話ですね。

秦は、世界の舞台で様々な人を見たといいます。その経験を話したい、将来は講演会開いたり、ラジオやってみたい、と話してくれました。

その話を、私は職員室で話してみました。

「いいね、うちでやってもらおうよ」

秦の初めての講演会が決まった瞬間でした(笑)


15%という数字を知ってほしい講演会

とんとん拍子で話が決まり、迎えた11月19日。

秦は講演会の出だしに「今日は15%という数字が何の数字かっていうのを覚えて帰ってほしいと思います。ただこれだけ」と言って始めました。

なんの講演会なのかよく知らされずに集められた生徒も、この声がけで少し気持ちが軽くなったと思います。

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自己紹介から自分の生い立ち、パラ閉会式の動画や、秦がパフォーマンスで使った義手楽器の紹介、一緒にパフォーマンスをした方々の紹介を軽やかに進め、今回の本題へ。

パラリンピックが終わって振り返ってみると、競技や開閉会式を見た人みんな「パラリンピックめちゃくちゃ感動した!!」と言っている。なぜ、あえてオリンピックと比較してパラリンピックが感動したというのか。

秦の用意したスライドは「障がい者が頑張っているから?」という問いかけが続きます。

自分でもできないのに、腕がない人が~していてカッコイイ、眼が見えないのに~できてすごい、車いすなのに頑張っている。そこに感動した?本当にそうなのかな?

確かに、根本的な部分には誰かが何かを頑張っている姿に感動することはあると思います。でも理由はそれだけなのかな?

NHKの開閉会式の中継では、誰がどんな障害や病気を抱えているかという説明はほとんどなかったそうです。なぜか。

そんな説明は要らないから。

そんな説明しなくても、この人、すっごくいい演技してる。この人すごく魅力的なダンスしてる。そこに、障害があるかないかなんて、いらないんです。

障害を持った方を見ると、「腕がないのに」「車いすなのに」という同情があったけど、その色眼鏡を外して見てみると、「別に障害の説明なんていらないじゃん」「なんだよ、こんな素敵な世界あったじゃん」と気付いてしまったから「パラリンピック感動した」という人がたくさん出てきたのではないか?

障害を持った人たちは、その生活が当たり前のこと。周りの人がそれを「頑張ってる」「無理しないでね」としていたけど、今回のパラリンピックを見て、「障害あろうがなかろうがカッコイイじゃん」という素敵な世界に気付いてしまったから感動が生まれたのではないか?

同情の角度から見ていたけど、別の角度から見ることができたから、新たな世界に気付いたんじゃないか?

と、文に直す上で多少変えましたが、実際はもっとフランクな口調で語ってくれました。秦独特の話し方ですが、高校生には伝わりやすかったと思います。

そして「見る角度を変える」という言葉から、次の話へ。展開の仕方上手ね~と関心しました(笑)

障害は大きく「見える障害」「見えない障害」の2つに分けられるということ。

秦は自身の例を取って、「片腕がないことは見える障害」といいます。そして「僕、実はもうひとつ障害を持っていて、生まれつき右耳が聞こえないんです。これは見えない障害ですね」と説明します。

この耳が聞こえないことも、教員Hは秦と知り合ってだいぶ経ってから知りました。早く言ってくれれば書道室での席も配慮したのに、と最初は思いましたが、秦にとっては当たり前なことだから言わなかったんでしょうね。

今回の講演でこの話をするから、片耳聞こえないのは言わないでねと言われてました。講演会始めに秦を紹介するときも、どこまで言うか打ち合わせまでしてました(笑)

そしてこのことから「伝えたい事」として、秦は「みなさんの想像力がこれから大事になっていく」とつなげます。

例としてスライドには、さっきまで歩いていたおじさんが、急に立ち止まってしまったという場面。みなさんはどう思うかと問いかけます。

「邪魔だよ」「どけよ」「何で急に止まるんだよ」という意見もあるかもしれない。

でも、想像力を働かせて見る角度を変えてみると。

「めまいがしている?」「動きたいのに何かあって動けない?」「考え事をしている?」

続いて「体育の授業で普段は参加しているのに持久走だけ休む生徒」のスライド。

これも「さっきまで元気だったじゃん」「持久走だけサボりかよ」という意見が出るかもしれない。けど、想像力を働かせてみよう。

「体調が悪いのかも」「ぜんそくを持っている?」「頑張りたいのに何かの理由で頑張れないのかも」

実はこれ、秦本人の話。中学、高校の頃、ぜんそくで持久走を休んだら友達に「さっきまで元気だったのに持久走だけ休むのか」と言われたそうです。

この2つの例は、どちらかと言えば「見えない障害」の話です。

特に「頑張りたいのに頑張れないのかも」と想像するのはとても大切なことで、みなさんには想像力をもって生活をしてほしいと秦は言います。

声をかけても無視された。もしかしたら耳が聞こえないのかも。

助けなくてもいい、知って、想像力を働かせて、こういう人かもしれないと思うことで、「見えない障害」の人達は救われるそうです。

そして最後にタイトルの「15%」の話に。

「15%」というのは、「世界の人口の15%は何かしらの障害を持っている」という意味。計算すると、12億人

この数字を見ると、とても多いと思いますよね。でも生活の上で障害を持った方にそれほど出会いません。それはもしかしたら、「見えない障害」を持った方に気付いていないからかもしれません。

今回のパラリンピックがきっかけとなり、#WeThe15 というキャンペーンも始まりました。これは障害を持った方の人権を守り、多様性を理解し、共生社会の実現を目指そうというものです。


小学校、中学校で受けてきた「障がい者理解教育」といわれるものは、「こういう障害を持った方がいます」「困っている人を見かけたら助けてあげましょう」という内容が多かった気がします。

それに対して、秦の今回の講演会は「15%」という数字を知って、分かって、覚えてほしいというのが目標でした。多様性の理解とか難しい話は置いておいて、「知っているだけでもいいよ、ちょっと想像力だけ貸して」と、グッとハードルを下げてくれたように思います。

講演会の後の生徒の反応もよく、きっと伝わっていると思います。今後社会に出て「共生社会の実現」に活躍してくれることを願います。

アンケートの回答の内容も、ポジティブなものが多く見られました。ネガティブな意見に対しては「これも多様性ですよ」と秦は笑っていました。

手前味噌ですが、今回の講演は成功したかなぁと安堵しております。

そして改めて、秦優人には尊敬の念を抱きます。

私は秦が書道部に入ってから「障がいを持っているのに頑張っているのがすごい」という感覚を持っていません。目の前で秦が何でもやって見せてくれるからです。なんなら、私も他の書道部員も「秦これやって」「それ取って」「そこ押さえといて」と当たり前に言ってた気がします(笑)

そして、秦がするパフォーマンスのクオリティにみんなただただ感服していました。

秦は今年リハーサルなど忙しい中、教員採用試験に受かり、来年は中学校の先生になります。ホントにさ、どんだけやるの、と。(笑)

もう秦には敵わないです。改めて、自慢の生徒です。


また来年もやってほしいという声が上がってますが、
ご都合どうでしょうかね、秦さん?



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前列右:小澤綾子さん、前列左:中嶋涼子さん、後列右:輝彦さん

秦が共演した方々も見に来てくれました!片腕のギタリスト輝彦さんは「演奏しますから呼んでくださいね!」言ってくれました!ぜひよろしくお願いいたします!!当日は本当にありがとうございました!

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東京都千代田区神田の男子校、正則学園高等学校です。 2021年10月16日で創立125年を迎えた伝統校ですが、どんどん新しくて面白いことにチャレンジしています。